倉庫に腹を撃たれた男が大きな男に担がれて入ってくる。
- 二朗さん堪忍な。下手こいたわぁ・・・まさか、完全に待ち伏せされてとるたぁ・・・こりゃ悪質ないたずらやわ。
- 黙ってろ・・・
- そう言わはるけど、これ喋ってないと結構痛むのよ。俺も男の子やから叫んだり泣いたりしとうないけどや、結構ギリギリなんよね。
- 気絶させるか?(こぶしを見せる)
- 冗談あかんて?無茶したら死ぬやんか?
- 本気だ。
- せやったら自分でするから、後ろで支えててぇな?
- わかった・・・
- あーあ、ムカつくなぁ。誰やねん裏切り者は・・・(ヤンキー座りになる)なんで、いい年こいてこんな恰好せなあかんねん?二朗さん、ちゃんと支えててくださいよ。んで確か俯いて深呼吸して息止めたら意識飛ぶんやったよなぁ。
- ああ・・・
- ドラマみたいに簡単に当身で気絶出来んねやったらええねんけど・・・
- やってみるか?(再びこぶしを握る)
- 二朗さんのは簡単ちゃうやんか!腹に穴空いてるのにどこ殴るつもりやねん。
- そうだな、顎かな。
- せやね、顎殴ったら脳震盪でふわーっと気持ちよく。いけるかい!景色ドロドロんなるだけで、意識飛べへんがな!
- (現れる)大丈夫よ・・・あたしが静脈麻酔薬を持ってるわ。
- 一葉、生きてたんや・・・流石やね。で?●●の人は?
- 死んだわ、あたしをかばって全身を蜂の巣よ。
- そう・・・あの人の●のおかげで最後は逃げられたようなもんやからお礼言いたかってんけど。
- こっちは梅が行方不明で●が捕まった。
- 気に入らないわね・・・オールスターじゃ無かったの?(晋三のそばに座ると、鞄から道具を出して作業する)
- 面子的にはな・・・せやけど、相手に筒抜けなんやったら意味ないがな。俺たちゃコッソリ殺す殺し屋で、闇雲に強いわけやないからね・・・
- けど、こうやって三人揃えたのは不幸中の幸いかしらね。
- 幸いなんてあるかい・・・これ無茶苦茶痛ぇもの。
- (注射しながら)あと少し我慢すれば痛みだけは飛ぶわ。
- 意識もやろ?ちゃんと血止めしてな。せやないと俺死んじゃうからね。
- けど弾丸を抜いてからじゃなきゃ?
- え、ここで?病院がええなぁ・・・出来れば美人の女医さんを希望やで。
- 二朗さんにお願いするわ。
- 嘘やろ、一番縁遠い人かよ・・・
- けど、包丁の腕なら貴方といい勝負よ。
- あーあ、だったら俺の「鱧しめ」つこうて下さいよ。二朗さんのはイチイチごつうてかなわへんから・・・
- わかった・・・
- 縫うのは私がやるわ。それから止血する。
- あーあ、てめぇの包丁でおろされる日が来るとは、ったくなんちゅう日やねん。
- そんだけ喋れてりゃ死ぬこたぁねえさ。
- 気休めありがとう・・・けど、大分痛いの飛んできた。
- (現れる)貴方達も無事でしたか・・・
- 貴方確か梅の。
- ええ、神崎です。
- そこは名乗っちゃうのね。つーか、これが無事に見える?
- 流石ですね。裏の競り人「殺しの番号」だけはある。三人とも戻ってこれるとは。
- 良く、逃げられたな。
- ええ、逆方向でしたからね・・・僕の場合は得物がこれなんで(ロープ)、逃げるだけなら色々と都合がいいんですよ。その分、皆さん程殺しには長けていませんけどね・・・
- 良く言うわ・・・思っても無い癖に。
- とんでもない、けどこういう時、臆病なくらいが丁度いいみたいです。
- あんたが手引きしたのか?
- 冗談・・・僕なら、全員確実に始末できる方法じゃない限りやりませんよ、今回のメンバーに恨まれたら、それこそ生きた心地がしませんから。
- へッ、どうやろな?
- まずは御剣さんを待ちましょう。この場面なら依頼人である彼を問いただすのが一番です。
- ああ、違いねぇな。
- 他にも戻る人がいるかも知れないしね。
- けど、ここが危険って事はないのか?
- 勿論です。でも、ここが良く出来た場所だって事も貴女なら承知でしょ?ここなら少なくとも逃げ道が10通りは存在する。
- へぇ、梅の人もちゃんと全部調べてたのね。そういう意味では御剣定九朗さんは信じられるって事かしら?
- 神崎です。今のところですけどね、ただ、あの人が裏切るにしては手が込みすぎています。
- あかん、無茶苦茶ねむなって来た・・・
- 二朗さん、晋三さんを奥へお願いしていいかしら?後これ、消毒用のブランデー。
- わかった・・・
- ここで外科手術ですか?流石魚河岸の人達は違いますね。
- あたしら年間に幾つの命捌いていると思ってるの?その辺の外科が裸足で逃げ出すような数字よ。下手な医者よりはよっぽどその辺は長けてるわ。
- 仰る通り、今は医者も評判が怖くて簡単なのしか切りませんからね、その点あなた方の手先は、外科医なんかじゃ到底かなわないほど繊細ですからね。
- 結局数がモノをいうのよ。それにあたしらが切るのは大抵人間より小さいから。手先はそれだけ器用になるわ。
- で、菊の貴方は誰が裏切ったとお考えで?
- 知ってるのにとぼけるのね?物集一葉よ。さぁ、少なくともあたしの近くで死んだ●●じゃない事だけはわかるけど、そう言う貴方はどうお考え?
- 質問に質問で返すのは良くないって教わりませんでした?僕がわかるのは●●と萩じゃないことぐらいですかね・・・
- 何故かしら?
- 萩の方、有名すぎますから。中城仁美、拠点を構えない殺し屋としての名前は最早国際的ですからね、いくら積まれたとしても評判を落とすには割に合わない。
- なるほどねぇ。で?●●の人は?
- 実は古い相棒なんです。あの人が裏切るのはちょっと考えにくいですよ・・・
- 大した信頼ね。ま、けど私もあの人は疑ってないわ・・・
- 何故です。
- あの人も、私を逃がすために・・・
- まさか?
- わからないわ、けど無事だとは考えにくい状況だったけど。
- そうですか・・・けどあなた方だってそうでしょ?古い仲間ってそういうもんなんじゃないですか?
- どうだかね・・・あたしらはもっと金銭的なつながりを軸にしてるから、情だけで割り切れるものとも違うと思うけど?
- で?そちらの考えも伺いたいところですが?
- 今だから怪しいと感じたのは、藤に芒に、柳ね・・・
- ほう?
- 芒は分かりやすいわよね。スナイパーだから単独行動をとるって、監視の目が無い分、色々自由に動けたはずよ。柳は打算的すぎた、金額次第で仕事を覆せるタイプよあの女は。
- で?藤は?
- 佐藤誠。この世界じゃ伝説的な人物よね?
- ええ、もちろん。知らないとしたら潜りですよね。
- けど、その顔を見たものは誰一人としていない・・・これまで依頼人を含め一人もよ。
- そう、自分もそこ気になっていました。簡単に現れたなぁって、けど、それゆえのオールスターですけどね。
- 大体あの人、偽名でしょ?佐藤は日本で一番多い苗字、誠も70年代に一番多かった名前。もっとも、年齢だって怪しいもんだけど・・・
- つまり、あの人があの人であることを保証できる人間が、誰一人としていない・・・
- まぁ、敢えて言うなら定九朗さんかしらね。
- 幻の定九朗。今回のクライアントがそもそも伝説的な人ですからね。これまで何度も死んだという情報が飛び交いながらも必ず政財界に太いパイプを持ち続けてしぶとく生きている・・・男。
- ま、その定九朗さんが会った事無いって言ってんだから、出自の怪しさは今回一番じゃないかしら?
- 成程・・・
- 後、肝心なのが貴方よ・・・元公安の神崎愁さん。
- そう来たか・・・(笑う)
- 私正直、一番怪しいと思っているのが貴方なんですけど・・・
・一葉、デリンジャーを取り出すと神崎に向ける。オープニング。